わたしと技術とマネジメント、およびゲーム

ゲーム制作記アンドゲーム随筆

おもひでぽろぽろについて語る

最近ブログの更新頻度が落ちている。

忙しいのは理由にならない。

というか忙しいより、

 

眠い。

 

今回はジブリの映画「おもひでぽろぽろ」について語ろうかなと思う。

 

今日は40分ぐらいしゃべろうかな。

 

文字の長さを時間に置き換えるのは難しいので、とりあえず語っていこうと思う。

 

あらすじをWikipediaから持ってこようと思ったが、めんどくさいので適当に書く。

 

舞台は1982年。東京生まれヒップホップ育ち

東京育ちの27歳OLの岡島タエ子には田舎がなかった。田舎に憧れ、姉の夫の親戚の家に休暇を利用して遊びに行く。

 

移動中の寝台列車、田舎での数々の出来事、会話の度に小学5年生の頃を思い出す。その記憶はときにあたたかい気持ちを起こしたり、悲しい気持ちを生んだりする。そして親戚のある発言で記憶と共に混乱してしまうが……。

 

なんかSFサスペンスみたいなあらすじ紹介になってしまった!

 

とりあえず詳しく見ていこう。

 

1. 岡島タエ子という主人公

 

まずね、主人公の設定がすごい。

27歳のOLですよ。主人公。しかも1982年が舞台なので、今のナイトプールでインスタグラム起動しているようなOLとは訳が違うわけですよ。お茶くみ、コピーとり、掃除、いわゆる庶務係ばっかりの頃のOL。平均寿命も違う。早く結婚しろと急かされる。今の時代で言えば34歳ぐらいですよ(34歳の方を非難しているわけではありません)。

 

34歳の女性を主人公にしたアニメ映画なんかかつてあっただろうか。映画公開が1991年だが、91年から今まででもそんなアニメはないだろう。

しかも、タエ子はブ〇とは言わないが決して美人ではない。モデルが声優も務めた今井美樹さんだが、「笑うと頬骨が出てかわいくなくなっちゃうんです」とご自身でも言っているとおり、普通の顔なのである。

 

こんなアニメあるか?

 

この主人公のモデリングだけでも高畑勲監督の徹底したリアリズムが感じられる。ちなみに原作も上野のブックオフで買ったが、大人になったタエ子さんは描かれていない。小学生のやんちゃなタエ子の物語である。つまり、映画のタエ子は完全なオリジナルなのである。

 

それであんな主人公にするか??

 

テレビで放送されるとタエ子がかわいくないだちょっとメンヘラだなんだ低評価を聞くが、この「普通」さがこの映画のおもしろさなのだ!(ちなみに俺は好きすぎて20回以上観ている)

 

この唯一無二の主人公、岡島タエ子、素晴らしい!

 

2. トシオ

 

トシオ、25歳、農家。又従兄弟だなんだとか設定はあるが、要はタエ子の姉ちゃんの旦那さんの親戚である。モデルは声優を務めた柳葉敏郎さん。自分が山形の農家であることを誇りに思っているが、東京に出た同級生などに東京風を吹かされると、すこしジェラシーを感じた模様。算数は得意だったらしい。

 

この設定も絶妙。年下なんですよ。ラブロマンスのお相手が。トシオはタエ子より年下なんです。思い出してください。

 

タエ子は27歳で行き遅れ女子扱いされる時代なんです!

 

つまりですよ。27歳で「余っちゃった」女の子を、年下のまだまだ夢があるトシオがもらうことなんて時代的に御法度なんです。あり得ないわけじゃないけど、禁断の恋的なところがあるんです!馬鹿にしているわけじゃないです!そういう時代なんです!それを踏まえてくれ!

 

ここもひとつポイント!

 

3. ストーリー

 

ここからは一気に書きたいので、もうまとめます。

 

タエ子さんはプーマの靴をねだる親戚の女の子を見て、昔自分のわがままで家族を困らせて、唯一自分に甘かったお父さんにまで平手打ちを食らったことを思い出したり、まぁどうでもいいような映像が流れながら物語は進んでいきます。

 

そう、ストーリーには影響しないのでほとんどの回想はどうでもいいの。

 

父親や母親がよく昔の音楽やテレビ番組を見て懐かしいと言う。俺も90年代の音楽を聴いて懐かしいなぁと思うが、その音楽は古くさくはなっていないし、なんならカラオケではまだまだ現役。本当の意味での懐かしさではないように感じる。

 

しかし、この映画にはなぜかノスタルジー、郷愁、懐かしさを感じる。27歳の自分は1982年ですら生まれていないのに、1966年の小学5年生のタエ子さんを見て、懐かしいなと思う。それはなぜか。思い出が共有できるからである。

 

タエ子さんはお姉ちゃんから黒いエナメルのバッグをもらう約束をしていたが、ささいな口論から要らないと言ってしまう。その後、家族で食事をすることになって、その黒バッグがないと食事には行かないと言い出す。しかたなくバッグを持ってきたお姉ちゃんはタエ子の頭に放り投げる。頭にきたタエ子は行かない!!とキレる。皆、呆れて食事に行こうとする。優しいお父さんですら。慌てて玄関に出てきたタエ子。

 

裸足で。

 

バッチーン!

 

お父さんの強烈な平手打ち。ここで回想はおわる。

 

どうだろうか。シチュエーションに違いはあれど、似たようなわがままで家族を困らせた人はいないだろうか。というかみんなそんな経験ありますよね?

 

ない人はいますぐ宗教やった方がいい。聖人君子だ。

 

誰しもが経験する幼少期を高畑監督はえぐってくる。誰しもが思い出すとキュン、となったりうわぁ!!となる思い出を盛り込んでくる。

 

懐かしいのだ!この思い出が!

 

思い出はその頃流行った音楽や曲のことではない。そこから想起されるその頃の思いや出来事のことなのだ!!と感じる。このタエ子さんとの思い出の共有というのはクライマックスでとても大切な意味を持つ。

 

誰かが優しくしてくれると思った。私は悪くない、お姉ちゃんが悪い。優しいお父さんなら一緒に行こうって行ってくれる、誰かが助けてくれる。

 

こんな甘えん坊な思い出、みんなにもあるのではないだろうか。

 

そんなこんなで楽しい田舎生活も終わり、明日には帰ってしまうタエ子っち。最後の夜にケーキ(かなぁ?)を作るべくメレンゲづくりに励んでいると、親戚のババァがやってくる。

 

「タエ子さん、トシオんとこさ来てくんねぇべか」

 

「え?」

 

晴天の霹靂。茨城から名古屋に異動してくれと言われたときぐらいびっくりだろう。すぐさま親戚のおじさんが止めにかかる。

 

「ばぁちゃん、何言ってんだ、タエ子さんびっくりしてんべ!タエ子さん、冗談だから気にすんな」

 

「いいや、おらは本気だ!」

 

「タエ子さんは休暇を楽しみに来てくれてんのに何言ってんだ」

 

「お前だってトシオの気持ち知ってるべ」

 

「そんなこと言ったって……タエ子さん!!」

 

タエ子さん脱走。ババァ悪びれる様子なし。

 

皆さんはサマーウォーズを見たことがあるだろうか。押井守監督のあれ。その中で、おばあちゃんが死んで、弔い合戦に燃える男どもと葬式だなんだで忙しい女達の対比がおもしろく描かれているが、

 

おもひでぽろぽろは真逆だ!

 

ここで女は知能が低いだとか、そんな前時代的な差別を語るつもりはない。ただ、社会的にもめ事を防ごう、平和的に行こうとする傾向が男にはある。時に感情的になってしまう女性は多いと思う。つまり、単純にババァはトシオの気持ちも考えて、乙女心でタエ子さんとトシオをくっつけたかったのだ。とてもまっすぐな感情なのだ。親戚のおじさんはまぁまぁ落ち着けと。来てくれたら嬉しいが、タエ子さんの気持ちも考えてあげろと。どっちの言い分もわかる。

 

サマーウォーズでは男の中2心が高ぶって、この馬鹿ども!!みたいなところがあり、それがコミカルでおもしろいが、結婚という深刻なテーマに(サマーウォーズ人工衛星落下なのでかなりの問題だが)男女の違いが見えている。

 

雨の中、立ち尽くすタエ子さんに車で通りかかったトシオが話しかける。

 

「本家で何かあったんですか?」

 

ここからが問題のシーン。おもひでぽろぽろが嫌われているシーン。

 

ぽつぽつと語り始めるタエ子。小学5年生のときに大嫌いだったアベ君の話をする。貧乏で不潔だったアベ君は鼻くそほじったり、暴力的な一面を見せたりと鼻つまみ者で友達がいなかった。アベ君と席が隣になったときに、皆から心配されたが自分は全然大丈夫だと答えた。

 

お父さんの仕事の影響でアベ君が転校することになったとき、アベ君が一人ひとりと握手することになった。汚いアベ君に触れるのも嫌だったが、アベ君は「お前とは握手してやんねーよ」とタエ子に言い放ち、自ら握手をしなかった。自分だけ握手されなかったことがなぜか寂しく、悲しく、ずっと心に残っていたことをトシオに話す。

 

こんなこと話して何になんねん!!と観ている人は思うだろう!

 

年下のトシオは少し彼女を馬鹿にしたように語る。

 

「アベ君はタエ子さんのことが好きだったんですよ、だって友達もいないのにみんなと握手したいはずないじゃないですか。タエ子さんのことが好きだったから、本音が言えたんです。お前とは握手してやんねーよーって」

 

そのトシオの明察に、年下のトシオに包まれているような、頼りがいがあるような……

 

は!トシオさんのこと……好き??

 

エンディングで二人がどうなるかは観てみてください。こんだけネタバレしておいてなんだけど。

 

俺、タエ子さんの気持ちがすごくわかる。良い子ちゃんになってしまう自分が。良い子ちゃんで生きることはとても辛い。結局損をすることが多いんです。仕事でも何でも。前職でも周りにいい顔しすぎて自分がつぶれました。みんな適度に毒を吐きましょう。

 

自分は田舎に憧れて遊びに来た。でも田舎の辛さを何も知らない。運転ができなければ買い物にも行けないし、冷夏や日照り、さまざまな天候の変化で農家は大打撃を受ける。冬はがらんどうの家が寒すぎるし、虫も多い。憧れだけで遊びに来て、田舎のおもしろいところだけを見て、うわっつらな付き合いをして帰っていく。そんな自分の浅さがトシオと一緒になれというばあさんの言葉で、一気に重くのしかかってくる。

 

このシーンがね、最高なんですよ。

本音を隠してにこにこしてると、いい人だな、と周りは思ってくれる。でも周りはだんだん傲慢になってくる。全ての要求を受け付ける。どんどん自分は辛くなってくる。本当に辛い。その辛さをこの映画は分かってくれているんです。それが本当にもう素晴らしい。

 

最後にアベ君がつばを吐くシーンがあるんですが、それを真似してリトルタエ子もつばを吐いて歩いて行くシーンがあります。それはおそらく良い子ちゃんだった自分の殻をトシオが取り去ってくれた結果なんでしょうね。

 

あー、語った。つっかれた。

 

ちなみにタエ子とトシオが蔵王の山で会話しているときに

「タエ子さんご結婚は?」

「まだよ、おかしい?」

「いや、おかしくはないけんども」

「今は女性が働いて独身ていうケースも多いのよ」

「そっか」

「そうよ」

「そっか……」

「そうよ(笑怒)」

というシーンがある。

 

トシオは好きな人に「彼女いないの?」みたいな確認をとる意味で聞いたはずである。結婚願望はあるんだろうか。この人は僕のことどう思ってるんだろうか。僕はあなたのことが好きです!!というの全て含めて「ご結婚は?」と聞いたのである。

 

しかし、タエ子は頭でっかちなので、また行き遅れを馬鹿にされていると感じ、ちょっとむっとした風に(良い子ちゃんなので笑顔だが)年下のトシオに言い返す。かみ合わない二人。

 

こうした微妙な感情表現を研究していくのもおもしろい。すごく微細な表現がいくつもちりばめられている名作です!ぜひ見てちょんまげ!!!

 

興味がある人はジブリの教科書6も是非読んでみてください。

 

 

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